前回の記事に引き続き、書店を舞台にした作品をピックアップします。
前回の記事:海行リリ『純情書店』の感想
あらすじ
ケンカ上等の元ヤンが、書店員にまさかの転職!? 肉体労働しか知らない天地(てんち)は、付録を組めばゴミの山、レジに回れば客に凄む、と失敗ばかり。何より、天地の一挙一動に目を光らせて厳しく指導してくる店長の桜井(さくらい)が気に食わない。けれど偶然、意外にも桜井の泣き顔を目撃してしまい!? ヤンキー男子×インテリ店長の異文化交流ラブ。
Amazon商品ページより
前回ご紹介した海行リリ『純情書店』は、書店員とお客さんの物語でしたが、この作品は書店員同士の物語です。
関連記事:海行リリ『純情書店』の感想
主人公は、いわゆる元ヤンの天地と、書店の店長である桜井。
天地が勤めていた建設会社が倒産し、桜井が店長を務める書店に転職することから物語が始まります。
肉体労働しかしてこなかった天地と、どこかインテリな雰囲気の漂う桜井。
対照的な二人が、物語の魅力を高めています。
なかなか書店員としての仕事に慣れない天地。
その仕事ぶりは破茶滅茶です。
店長・桜井から元ヤン・天地に対する評価はこんな感じです。
シュリンクやらせれば本を焦がすし
黒沢椎『書店員のオススメは』
レジに入れば客をビビらせて電話対応もまともにこなせない
一体何ができるんだ
でも、そこが天地の可愛らしさでもあるんですよね。
一方で、店長の桜井は、クールで隙がないイメージ。
天地と桜井。
いかにも対照的で、相性もよくなさそうな二人が、どのように絆を深めていくのかは、この作品の見どころです。
元ヤン・天地からみた店長・桜井の第一印象は次のとおり。
出た親玉 テンチョー桜井
黒沢椎『書店員のオススメは』
インテリ鼻にかけて涼しいカオしてるような
俺が最大に嫌いな人種
もう「最悪」ともいえるような関係性からはじまる二人には目を離せません。
感想
「ミスマッチ」からうまれる面白さ
この作品の面白さは、一種の「ミスマッチ」からうまれていると思います。
元ヤンの天地が書店員に転職するというのも一見すると「意外」かもしれません。
その天地とクールでインテリな桜井との関係性も一見すると「ミスマッチ」です。
でも、だからこそ面白い!
「合わない」と思われるものが「合っていく」展開はとてもドラマチックなものです。
元ヤン・天地の大雑把な性格は、知的なイメージのある書店員としての業務に合わないと思いきや、それがプラスに働くこともあります。
本は理性で読むもの、のように見えて、どこか感情優位なところのある天地の考え方・言動が必要とされる場面もあるんですね。
考えてみれば、本はときに心を動かすものでもあります。
天地の潔さがどう輝くのかは、この作品の見どころの一つです。
クールの裏側
もう一人の主人公である店長・桜井。
クールでインテリな雰囲気のある彼ですが、「弱さ」をみせる場面もあります。
このギャップが人間らしくて魅力的です。
どれだけクールに振る舞っていたとしても、人間ですから……
理性だけでは片付けられないこともあるものですよね。
その「弱さ」に寄り添っていく天地。
不器用にも真っ直ぐな彼の様子には、心が温まります。
コミカルながらも深みのあるストーリー
全体的にはコミカルな印象ではありますが、店長・桜井の悩みを中心として深い心情描写もみられます。
天地が偶然にも店長・桜井の「普段と違う様子」を見かけたときの気持ちが象徴的です。
……店長でもあんな表情する時があんのか
黒沢椎『書店員のオススメは』
いつも鉄壁のクール面してんのに
プライベートじゃもっといろんな表情を見せるんだろうか
笑ったり ふざけたり
まだ知らない違った表情も
桜井の未だ知らない一面を垣間見て、大雑把にみえる天地もしっかりと桜井の心境を読み取ろうとしています。
「あんな表情」をした理由にもまた深いものがありまして……
カジュアルに読んでいたら、気がつけば深いところに辿り着いているという、引き寄せられるような展開があります。
まとめ
様々なギャップが織り交ぜられた作品です。
ギャップに魅力を感じる方には、きっと気に入って頂けると思います。
書店が好きな方、意外な組み合わせや「ギャップ」が好きな方はぜひお手にとってみてください!
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